おつかれさまでした

終戦




「セCS第1ステージ第3戦、阪神0-2中日」(20日、京セラドーム)

 最後の花道を飾ることはできなかった。阪神クライマックスシリーズ第1ステージで敗退。辞任を表明して臨んだ岡田彰布監督(50)の、最後の戦いが終わった。試合後にはグラウンドで選手らによって胴上げされた指揮官。岡田阪神第一幕の終演に、涙が止まらなかった。

  ◇  ◇

 敗戦の京セラドームに響く岡田コール。

 「オッカッダ!オッカッダ!」。

 スタンドの誰も帰ろうとはしない。現役時代のヒッティングマーチがドームに響く。「アンタが一番や!」。絶叫が聞こえる。

 セレモニーの予定などない。それでもファンは待っていた。選手たちが現れた。大歓声がグラウンドへ降り注ぐ。マウンドに輪になって指揮官を待つ。遅れて登場した岡田監督は赤星が声を掛けると照れたように笑った。

 背番号80に集まった。歓喜の胴上げはならなかったが、惜別の思いを込めてみんなが縦じまに触れた。1回、2回、3回…。それぞれの指揮官の思いが6回の胴上げになった。

 岡田監督にはもう何も見えなかった。ぬぐってもぬぐってもあふれてくる。赤星、金本、矢野、下柳、鳥谷…。1人1人と右手で握手しながら、とめどなくあふれる涙を左手でぬぐった。

 藤川には「お前で打たれてよかったよ。なあ球児。お前で終われてよかったよ」と言った。

 ウッズに決勝弾を浴びた守護神を責めることなどなかった。

 「マウンドとホームの2人の勝負。送り込んだ以上何も言うことないよ」

 先発で伸び悩む球児の特性を見抜きリリーフに抜てきした。自らの最高傑作ともいえるまな弟子が打たれて終わったなら悔いはない。号泣するまな弟子と一緒になって泣いた。

 球児だけではない。ここにいる誰もが、共に戦ってきた。かつてダメ虎と言われた姿はない。常勝チームを作り上げた自負がある。

 試合終了後のミーティングでは「お前たちはまだまだ強くなれる」と言葉を贈った。コーチ陣には「タイガースは常勝軍団になりつつある。もっともっとチームを強くしてほしい」と後を託した。

 辞任を伝えた夜、「成績が悪くて辞めるんちゃう。優勝できんかったから辞めるんよ。悔いなんてない。ある程度勝てるチームは作ったからな」と言った。この5年間に悔いはない。愛するタイガースのために、持てるすべてを降り注いだ。そこに悔いがないのは本心だ。ただ1つの心残りは「最後が甲子園じゃないのがなあ」。

 スタンドが泣いている。コーチ、裏方、球団職員とチームにかかわるすべての人と握手し終えると涙声で「行こうや」とライトスタンドを指さした。

 右手で左手で何度ぬぐっても止まらぬ涙。泣き顔のまま岡田監督はスッと帽子を取って「ありがとう」と言った。

 どこからともなく「帰って来いよ」の声が飛ぶ。

 「オッカッダ!」「オッカッダ!」。

 再びグラウンドへ戻ってくる背番号80を虎ファンと甲子園が待っている。